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海遊びのいいのはヘンな人に会わないこと



 この間、電車に乗って東京に行く用があったんですが、刺青というかタトゥーといって欲しいんだろうけどやっぱり刺青だよなと思うんですけど、刺青を入れたオニイチャンが車内のある人をジッと見つめたまま、ブツブツ独り言をいっていました。瞳孔も開いていたんで、ぼくは車両を移りました。
 で、恵比寿に用があったんですが、20代前半くらいの女の子4人が駅の構内を横に広がってゆっくりノンビリLOHASな感じで歩いていて、後ろから来たサラリーマンっぽいお兄さんに怒鳴られていました。
 で、用が終わってスタバで休憩しようと席に着いて、コーヒーの香りなどを楽しんでいたら、隣の席の2人連れの話が聞こえてきてしまいました。なんだか1人が宗教の人らしく、もう一人の人を勧誘しようとしているらしい感じでした。
 たった半日ほど久しぶりに都会に行ったら、かなり濃い光景が目に飛び込んできて、海辺の我が家に帰ったらドッと疲れて、ビールを飲んで、寝てしまいましたとさ。めでたしめでたし。

 って、めでたく終わっている場合じゃありません。
 東京っていろんな人がいて、お金持ちも貧乏人も、著名人も凡人も、常識的な人も非常識な人も、東京生まれ東京育ちの人も田舎から来た人も、本当にいろいろな人がいます。まあ、さしずめ人間のワンダーランドやなー、と思ったりするわけです。
 しかもそれぞれの人が気を張って生きている感じがして、それがボケーっと歩いているぼくにも伝わってきて疲れるんですね。

 ぼくもオジサンになりました。怠慢かも知れませんが、あんまり疲れることはしたくないんです。
 若い頃はいろいろな人からいろいろ吸収しようと思っていました。中にはどうしても好きになれない価値観の人もいましたが、無理して合わせていました。
 自分の価値観という殻に閉じ籠もっちゃ成長しない!頑張ろう!って思っていたんです。ああ青春!
 です、いい歳になってからは、無理してまで価値観の合わない人と付き合わないようにしようと思っています。
 仕事なんかで一緒に行動しなきゃいけなときはしょーがないですが、それも最低限でいいやと思っています。
 このあたりの感じは人生の折り返し点を過ぎて、残りの人生を数えることができるようなお年頃になると、わかっていただけるのではないかなーと思います。
 数年前、下流社会とか日本人は階層が2極化しているなんて話がありました。
 それを思い出しながら、この間の東京での出来事とかがノーリに浮かびつつ、自分のまわりの人々を眺めていると、興味関心とか暮らし向きとかで、いくつかの層が何層にもあるような気がします。あるいはいろいろな塊がたくさんあるといってもいいかもしれません。
 海辺に住んで、海遊びをしていると、長年付き合っている仲間はだいたい似たような価値観の人になってきます。これは発展性がなくて凝り固まっているといえばそうですが、そうやって暮らしているぼくとしてはとても心地いいものです。
 だいたい海遊びを長年続けている人というのは、やはり一定の範囲内の価値観の人ですし、ましてや流行っているわけでもないスキューバーダイビングとかシーカヤックとかセイリングをわざわざやっている人というのも、一定の範囲内の価値観の人です。
 それからコンスタントにそれらのウォータースポーツを続けている人というのは生活が安定している人でもあります。
 類は友を呼んだりして、同好の士は似たようなところに集まるようです。
 ザックリまとめてしまうと、そういう付き合いのいい点は「ヘンな人に合わなくていい」ところです。
 たとえばこういうことがありました。
 以前知り合いが、海辺の我が家に遊びに来ました。「家から海が見えるなんていいね。一度行ってみたい」ということで遊びに来ました。まあ我が家に遊びに来ると、だいたいウォータースポーツがオマケでついてくるわけですが、「シーカヤックとかサーフィンとかやる?」と訊いたら「危ないじゃん。サメとか出たらどうするの?」だそうで、砂浜を散歩することにしました。そうしたら「○○で買った靴が砂まみれになっちゃった。家に戻ろう。あーあ高い靴だったのに」とのこと。我が家は森の中に建っているので、鳥や蝉の声がします。しかも我が家はエアコン嫌いなので、窓を開け放してあります。一応網戸はあります。そうしたら「なんか蝉とかうるさいね」だそうです。
 こういうこともありました。
 職場の仲間に連れられて異業種交流会なるものに参加したことがあります。やたら名刺交換して、話をしていると、ビッグデータとかIoTとか「○○さん(有名な経営者らしい)が融資の時に口をきいてくれて…」とか「××の経営戦略は…」とかそういう話で、よくわからないし、興味もないし、ぜんぜん面白くなかったのです。
 そういえばこういうこともありました。
 近所の友達の住んでいる家に遊びに行ったときのことです。その家の隣の敷地が古いアパートになっていて、古いからか賃料があまり高くないそうです。そのためか知りませんが、ある部屋がヤンキーの溜まり場になっているらしく、夜中も騒いでうるさいし、バイクなんかをアパートの前に路駐して、友達の車が出入りできないし、ゴミはルールどおり出さないからカラスが荒らして散らかるし、いくら苦情をいっても聞かないそうです。 
 こうした類のことは、まあ、暮らしていれば誰の身にも多かれ少なかれ起きることですが、海遊びをしていていいのは、そういう自分の価値観とは違う人達と接することが大幅に減ることです。それはすなわちストレスを受けることが少なくなるということです。
 先ほども書きましたが、こういう考え方って狭量で偏屈な年寄りにありがちで、意固地で頑固な印象もありますが、ぼく自身は、そういう批判を受けても、もういいかなと思うようになりました。やはり世の中は自分の思うどおりにはなりませんし、思うどおりにならないことを受け入れて人間の度量を増やそうという努力も、もう若くないので、することもないな、と思います。
 それよりも日々楽しく暮らしたいのです。
 気心の知れた友達とワイワイ騒ぎながら、今日もうまい酒が飲めたなあといいつつ暮らしたいのです。
 わざわざイヤなことや汚いことを見ることはありません。できる限り自分の好きなことや、綺麗なものや、いいことを見て暮らしたいなと思うのです。
 書いていて、自分もだいぶ歳をとったなあと感じました。よい子のみんなはマネしちゃダメだよ。





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